「生死を問わず。本国からその連絡が来た」
 主人は淡々と告げた。しばらく黙っていたステラだが、
「……”とってきて”いいってことですね?」
 と聞く。その手にはいつもの剣とは違う得物。しっかりと、マリアシャルテが愛用している槍が握られていた。


 その頃、依頼にでた開拓者が必要以上の大けがを負って戻ってくることが多くなった。中にはどうしようもなくてそのまま本国に送り返されたり、運悪く命を落とすものも出てきた。戻ってきた開拓者は大けがのため口を利ける状態ではなく、何が起こっているのかギルドでもなかなか把握できなかった。
 幸いにしてステラとそのパートナーたちはそういう目にはいままで合わずに済んだ。けれどたまたまそうなだけであり、きっといずれは何事か起こるかも知れない。どうにかできないかと手の空いていた数人がステラの家に集まった。
「裏でもそんな情報が出てこない。今までこんなことはなかったんだが」
 フォルカーが苦々しくつぶやく。
「やはり魔物なのでしょうか。違法開拓者であれば食料や武器などの問題がでてきますが……どこから引いているのかわからない」
「あ、俺船の人と仲いいからそれとなく聞いてみたんだけど、その人が乗ってる船ではそういう、行き先不明の荷物ってのはないらしい」
 ルーティルの疑問にアレッティオが答えている。
「その人も今の事態は気になってて、ほかの船の奴に聞いてみるっていってた。やっぱり船にけが人や、…………死体を載せるってのはいい気分じゃないみたいだ」
「そりゃそうだろうさ。こちらとしても迷惑だ。裏には裏のルールってもんがある。もし人間なら、一人暴走すんなっていいたいぜ。まっとうな違法開拓者が迷惑だ」
「それなんか変ですフォルカーさん……」
 仲間の話を聞いていたステラは、まっとうな違法開拓者というわけのわからない単語に思わずつっこみを入れる。
「おまえ今まで黙っててそんなところだけつっこむか? 相変わらずマイペースだな」
「いや、俺でもおかしいと思った」
「おまえもかクロトキ」
 大柄の男が頭を抱えてイスにどかりと座った。
「そろそろメルがくると思うんだ。だから聞いてみた方が手っ取り早いよ、人か、魔物かは」
「そうなのですか。それなら……」
「一番いやなのはあれよね、魔物が人並みの知能を持ってるパターン。リザードマンなんかはかなり近いとは思うけど」
 ステラの言葉に一同は沈黙。そこにメルフィがやってきた。
「遅くなってすいません。外はかなりひどい雨になってきました」
「おつかれメル。そんなにひどいんだ」
 雨具を玄関で振りながらメルフィが頷く。
「最前から急に大振りになってきたようだ」
 クロトキが手近にあった布をメルフィに渡す。
「話してたらぜんぜん気づかなかった。珍しいね、ここでこんな雨。そういう季節なのかな?」
「いや、そうでもないです。ただの季節はずれの嵐だと思いますが」
「メルフィ先生が言うのならそうなのでしょう。私たちはここの気候には疎いですから」
 ルーティルの言うとおりだ。メルフィ以外は拠点に来て半年程度。
「ま、雨談義はいいとして、メルフィ先生」
「はい」
「聞きたいんだけど、傷口ってどんな感じだった?」
 アレッティオの問いに少し考えるメルフィ。おや、とステラは思った。単純なものなら魔物なら魔物、人間なら人間と言い切るだろうが。
「……なんというか、魔物に付けられた傷らしきものもあれば、人間に付けられた傷らしきものもあって……」
「……一番いやなパターンか? おいステラ、おまえよけいなこと言ったな」
「私のせいですかぁ? それはちょっとひどいですよ」
 フォルカーに下唇をつきだして遺憾の意を示し、メルフィにお茶を出す。
「ありがとうステラさん。すっかり冷えてしまって……」
「だよね。病院からここまで遠いもの」
「ギルドにも寄ってきましたから」
「そうなのか。ギルド主人はなんと?」
「そうですね……特にたいした話はなかったです。でも、ガーディアンさんたちの話を総合すると、どうやらどのタイミングとか、どこで、とかそういうものはぜんぜんバラバラだとか……コフォル島全域で起こっているらしいです。かろうじて、同時に起こる、ということはないそうですが」
「しかし先日、まとめて急患がでたように思うが」
「行き先が違っていました。片方はエンファン、もう片方はソンツァルナ宮に行っていたとか。たまたま帰還が同じだっただけのようです」
「……はぁ。ほんと、バラバラなんだな」
「そして私の方からは医者を代表してギルドに先ほどみなさんにお伝えしたことを報告してきました。また一段落したら病院に帰ります。みんなまだがんばってるから」
「ああ、ごめんねメル。忙しいのに」
「いいえ、いい気分転換になりますからそれでいいんです。詰めっぱなしだとなにか失敗しそうで……」
 苦笑いをするメルフィにステラはテーブルにおいてあった茶菓子を勧めた。少し迷ったが、メルフィも一つ焼き菓子を手に取る。
「うん、ちょっと甘いものでリフレッシュしてって。女の子の栄養補給はやっぱりお菓子だから」
「ふふふ、そうですね」
「このお菓子は絶品ですよ。酒場の給仕さん渾身の作だとおっしゃってましたから」
 ルーティルがぜひ残りも病院に持って行けと小さな袋にいくつかお菓子を入れる。男たちは理解できないと顔を見合わせ、ステラは何となく外を見た。雨風が強く、いつもなら広場の様子もみえるのだがぜんぜんわからない。
「……」
 どうぞ、これ以上何ともないうちに犯人が捕まりますように。願いはすれど、きっとそううまくは行くまい。なぜかそんな予感があった。

 雨は降ったりやんだり。どちらかと言えば降っている方がながいくらいだ。
「何とか降らないで居てくれるかな。もっちぃの餌になる虫ってば、雨降るといなくなっちゃうから」
「もっちぃって、あのプンクック? 前の人がおいてったって」
「そうそう。意外と人なつっこくてね、段々情がわいて来ちゃった」
 オルタス街道の掃除をしつつ、ステラは脇に置いてある石をひっくり返しては餌になると言う虫を探している。まああのプンクックは結構かわいいけどさ、アタシは虫はお断り、とデイジーはぼんやり空をみていた。
「……ああ、やっぱり雨が嫌なんだなぁ。一匹しか見つからなかった」
「あ、アタシいい。見せなくて」
「というかこっち向く気配すらないじゃない。はいはい、もう片づけたよ」
 そっぽを向いたままのデイジーに笑いかける。
「ねえステラ」
「んー?」
「……あれ、何だと思う?」
「ん?」
 デイジーが指を指す方向に何かが飛んでいる。
「……鳥……じゃなくて魔物? でも」
「だよね? アタシ正直、みたことない」
 それほど遠くない位置を飛んでいるのになにか把握できない。
「あっちはトム・タムのあたりか……」
「一応報告しとく? みたことないタイプの魔物っぽいのが空飛んでた、って。なーんかフツーにUMA扱いされそうな気はしないでもないけどさ」
「そうだね。用事も終わったし……」
 強いて言えば何かの予感。多分、悪い。なので心持ち急ぎ足でガーディアンの元へ戻る。
「さっき、変なの見かけまして」
「はい。どういった?」
 ガーディアンも心得たもので、最近の妙な事件を受けてどんな情報でもいったんすべてギルドに集めるようにしているという。ここに来たときも、変わったことがあれば必ず報告してくれと言われている。
「これこれしかじかで空飛んでった」
「……空、ですか」
「私もデイジーもみたことのない飛行タイプでした。そんなに離れていなかったのに何か認識できなかった」
「わかり、ました。とりあえず帰還しましょう」
 ガーディアンは何事かをメモに書き付けて手早く帰り支度を始めた。ステラはそれを手伝いつつ、先ほどの正体不明が飛んだ空を眺める。
「人のようにも、一瞬見えたけど」
 まさかね。

 拠点に戻ってみればふだんと変わらず。ただ、ステラが依頼書の束をみていた時、俄ににぎやかになった。
「またやられた!」
 外で誰かが叫んでいる。飛び出してみると、医者がちょうどやってきてけが人への治療を始めようとしているところだった。
「……この方はどちらに行かれてたんですか?」
 一緒に帰ってきたガーディアンに聞くと、トム・タム草原だという。
「……」
 ステラはそのままきびすを返し、ゼフィラスの拠点集落へ向かった。
「ニケ、いる?」
「いるよー。どうしたのステラ」
「……あなたのところは弓の使い手、多かったよね?」
「うん。ウチの伝統だから。それが?」
「対空迎撃をお願いしたいと思って」
「たいく……何?」
「対空迎撃。拠点に、空から侵入する敵に対しての防御かつ攻撃」
「あ、今はやりというか、騒がしい奴だね」
「もしも、のときの為だから……ギルド長には私の方から一声かけとく」
「わかった。私が声かけたら少しは集まってくれると思う」
 ゼフィラスの、元がつくとはいえ巫女、部族の人間からの信頼は篤い。お願いね、と一礼してまたギルドに戻った。なにがしかガーディアンたちに指示をしているギルド長のところへいく。
「ギルド長、ゼフィラスの人に頼んできました」
「何をだ?」
「対空迎撃ー」
「!?」
 息をのむギルド長だがすぐに咳払いをする。
「……確かにゼフィラスの力添えがあればだいぶん拠点をカバーできるな。いま、こちらも、飛び道具を使える奴は拠点の防衛に当たってくれと依頼を出したところだ。そうか。おまえはゼフィラスの巫女とも契約していたな」
「少しでも、役に立てればと思って」
「ありがたい。しかし、空とはな」
 どうりで島中神出鬼没のはずだ。
「せめてどこからくるのかが分かれば……まあ、これからの調査次第か」
 しばらく通常の依頼はストップだ、と手早く張り紙をする。
「ギルド長、私も調査に参加したい」
「……おまえ弓かボウガンは?」
「両方使えます」
「……ならできれば拠点の防衛に当たってほしいが……」
 じっと見つめるステラに、結局参加を許可することになった。

 どうやら大雨の日は出現率が低いらしい。
「雨に濡れるのをいやがるのかもしれんな」
 レインヴァルトがつぶやく。
「人間でも好むものは少ないだろうが」
 軒から大雨の空を見上げて一人つぶやく。ステラはそんな彼の横で地図とにらめっこをしていた。基本的に開拓者は空をあまりみない。デイジーも、たまたま手持ちぶさたで虫をみたくないが為に空をみていただけで、ふつうは地面で採取をしていたり正面を向いて戦闘をしている。
 が、いったん空というヒントが与えられたので外回りの人間が見上げるようになった。そうなると、結構な頻度で謎の魔物の飛来を確認できた。
「正確には人型の形状の魔物……ゴブリンやリザードマンに空を飛べるだけの力を備えた翼がついた魔物、ということだな。魔物はふつう縄張り意識が強いから別の土地に移動するなどよぼどのことがなければしない、のが通例だったが」
「それが、島の上空を縦横無尽ですね。これみてもそう思います」
 みていた地図をレインヴァルトに渡す。地図には目撃地点と飛び指った方向が記入されている。正直なところ、みてもどういう規則性があるかなどはさっぱり分からない。
「その辺の分析はギルドの人たちがやってくれますよ。私たちは見つけたらそれを報告。攻撃を加えられるなら、できるだけ応戦……」
 とはいえ雨ではこちらの攻撃も鈍る。弦の張り具合を確かめた。
「む!?」
 突然男が動きを止めた。どこかで。
「悲鳴!」
「近いぞ!」
 どうも魔法学院の方だ。雨をいとわず走り出す二人。

 人だかりが多く何が起こったのかはっきりとは分からない。けれど、おそらく弓やボウガンを持った開拓者が大勢いるあたり、おそらくあの魔物がでたのだろう。
「早く医者を!」
 誰かが怪我をしたのか、魔法学院からメルフィが血相を変えて走り出てきた。
「マリアシャルテさん!」
「!?」
 ステラは人をかき分け輪の中心へ。そこにはメルフィともう一人、マリアシャルテ。ステラの大事なパートナーだ。
「マリア、マリア!」
 愛称で呼んで、そういわれて以来ずっとマリアと呼んでいる彼女は、今は苦悶の表情をして時折はねるように動くだけ。
「メル、どうなの?」
「よく見てみないと分かりませんが、腕を射抜かれたか刺し貫かれたか……とにかくそういう貫通武器でやられたようです。毒やそのほかの心配はこれからみてみなければ」
「この人が、俺をかばってくれて……」
 近くにいた拠点住民が震える声でステラに告げる。
「マリア、マリア、しっかりして! メルが看てくれるから。大丈夫だから!」
「ス、テラさん……わた……くし、まだ……帰りたく、ない……」
「大丈夫! メルは世界一だから!」
「担架に乗せます! 誰か手伝って!」
 周辺の開拓者たちがメルフィの呼びかけに応じて担架を取ってきてマリアシャルテを乗せていく。後には付いていくことはしなかったステラと、警戒を再開した開拓者たちと、野次馬たち。
「……あれは」
 塀の近くに転がっているのはマリアシャルテ愛用の槍だった。

「だいたいの出現元は見当がついた。今は偵察に何人か出している」
 ギルドによばれてこの言葉を受けた。
「そう、ですか」
「そいつらが戻ってきたら突入部隊を編成する。おまえもくるだろう?」
「はい。お願いします」
「……おまえ、何かあったのか?」
「いいえ、何も」
「……」
 普段なら、どんなに深刻なときでも少し間延びしたマイペースな受け答えをするのに。だが、何もないと言うのなら何もないのだろう。それ以上追求することはできないのだから。
「いつ戻るか今はわからん。だが近日中だ。その準備をしていてくれ」
 と、一人の伝令が入っていた。もう戻ったか、とギルド内が騒然とするが、ギルド長に何事かを説明して一通の手紙を渡して去っていく。
「……本国から許可がでた。生死問わず、解決しろ、だ」
 その言葉にステラが視線をあげる。もう一度ギルド長は繰り返す。
「生死を問わず。本国からその連絡が来た」
 主人は淡々と告げた。しばらく黙っていたステラだが、
「……”とってきて”いいってことですね?」
 と聞く。その手にはいつもの剣とは違う得物。しっかりと、マリアシャルテが愛用している槍が握られていた。
「できれば生け捕りだが現場の状況で臨機応変にやってくれ。会敵した奴に任せる」
「ありがとうございます」
 感情のない声で応じた。
「俺からの注文は一つだ。どんな依頼でも必ず二人一組だ。スタンドプレイだけは許さん。それを破れば本国に強制送還する」
「わかっています」
 短く答えてギルドから出て行った。戸の閉まる音で知らず緊張していた体を軽く伸ばす。
「まいったな。いつものステラと全然違う。あれは……獣だ。しかも、手負いだ」
 あれが槍を持つステラか。アレッティオから噂では聞いてたが、普段の、人なつっこい猫のような彼女からは想像がつかなかった。
「だが、実際自分の目でみたのだから仕方あるまい。それもあいつなのだろうから」
 ギルド主人は目を閉じて頭を振る。
「……ここは戦場じゃない。だから、ステラは槍を持たなかったんだろうな」
 しかし、と目を閉じたまま笑う。
「怖気をそそるほど、いい女だ」

 ギルドをでたステラは鍛冶屋に来ていた。そっとのぞき込み、エミリオがいないことを確認。
「あらステラちゃん。どうしたんだい? エミリオは対空部隊に入ってるからいないよ」
「いいんです。親父さんに直接お願いしたくて」
「……なんだ。それか?」
 マリアシャルテの槍を顎で示す主人。
「研いで、ください。どんなものでも切り裂き、貫けるように。それが、人であっても」
 ためらう隙がないように。
「……わかった。確かに若造よりは俺向きの依頼だな」
 槍を主人に渡し作業場から離れて研ぎの様子を見る。本当にエミリオが居なくてよかった。今の自分の姿は、彼にはあまりみられたくない。あの優しい笑顔が彼女に対する恐怖に変わるのをみるのはつらい。ステラは頭を振ってエミリオの顔を振り払う。

 わたくしは、まだ、かえりたくない

 マリアシャルテは確かにそういった。帰国すれば政治のコマとして使われるだけ。あんな大けがをして後遺症が残ればそれすらもできなくなるかも知れない。そうなったときマリアシャルテはどこへ行くのだろう?
「マリア、マリア。私の……ともだち」
 お姫様なのに、ステラに胸襟を開いてくれた。親友だと照れくさそうに笑ってくれた。どうか、無事に完治してくれと願う。
「終わったぞ」
「ありがとうございます」
 主人から渡された槍は先ほどまでとは明らかに違っている。穂先は磨き抜かれ、不気味に光っていた。
 主人とエミリオの違いはここにある。主人は戦争を知っている、とステラは思う。そして従軍していたに違いない。だから、人を殺すための武器が作れる。人の肉や脂にまみれてもなお切り続けられる武器を。エミリオはそうではないのだ。
 どうやら彼の師匠はエミリオに一つだけ武器の製造方法をおしえなかったようだ。それが、これだ。彼が直してくれる武器を見ていて気づいた。そしていつ彼が師匠と別れたかは知らないが最近大きな戦争は全く起こっていない。それもこれもこの地のおかげだ。大国同士がこの島を巡って牽制しあうおかげで戦争には至っていない。
 それにステラ自身は、彼にはそのままで居てほしいと思っている。たとえそれが無理な話と言われても。いずれは、人を殺すために鉄を打つこともでてくるだろうが今でなくていい。初めての人を殺す武器をステラのものにはしたくない。
「あと、同型の槍を作っておく。全部終わったら取りに来い。おまえが使った後の槍をあのお嬢ちゃんに渡すわけにはいかんだろう?」
「……ありがとうございます」
「おまえは、今回の事件には人が絡んでいると思うのか?」
「はい」
「そうか」
 それだけ言って主人はまた元の仕事に戻った。ステラも鍛冶屋を出る。そのまま裏通りへ。一軒の宿へ足を進めた。
「クロトキさん」
「どうした」
 手元の明かりのみをつけて刀の様子を見ているクロトキが返事をする。
「今度の件で、もうしばらくしたら召集がかかります。一緒に行ってください」
「俺は構わん。ゲンカイ師直伝の技がついにみられるか」
「ありがとうございます」
 クロトキの返事を聞いてすぐまたステラは出て行く。しばらくは刀の手入れをしていたクロトキだが、やがてステラが消えた戸に視線を移す。
「……あの若い刀匠にはみられたくない、か」
 だから自分なのだろう。ゲンカイの技がどういうものか、伝聞ででも知っている自分。
 師はかつて、槍一本で戦場を駆け抜けたという。一騎当千を地でいくような有様だったと聞いている。物語として誇張されているとしても槍の腕は確かに一流以上。そして、相当苛烈な技だと。
「なかなかにあの女もかわいいところがあるものだな」
 大きい事件で開拓者に召集がかかるときはいつもエミリオがパートナーなのだが。軽く笑い、また刀の手入れに戻った。

 井戸水をくんだ瓶から何度か水をくみ出して体にかける。本当は滝があれば一番よかったが仕方がない。まだ月がでている早朝にステラは黙々と禊ぎを続けた。
 その後は髪をまとめた。いつものように簡単に適当に持ち上げるのではなく、少しずつ櫛削り丁寧に。わずかの髪も落ちないように。産毛一本すらじゃまだというように。
「……うん。久しぶりだけどなんとかなった」
 鏡の前で頷く。個人的には気にくわない部分もあるが他人はきづかないだろう。
「夕べあわただしい一団がギルドに入っていった」
 おそらく、もう後数十分もしないうちに呼び出しがかかるに違いない。ステラはマリアシャルテから黙って借りている槍を手に取る。
「ごめんねマリア、勝手に借りて。でも、私行ってくるよ」
 そこに軽くドアがたたかれた。
「数十分もしなかった、か」
 ステラは息を吸い込んで深呼吸。そして槍を携えて立ち上がった。


TO BE CONTINUED


 槍持ちお嬢の再来前編。
2013.11.6

 

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