3.出会いそれぞれ

 

 テーブルを脇に寄せて作った空間の真ん中にラーズは立つ。目を閉じればいつだって思い出せる、いつだって耳に響く懐かしき楽曲。地上では聞けない始まりの楽の音。
 翼はない。いらない。この二本の足で、二本の手で、髪の先まで。体中すべてが動き出す。無心に体を動かせ。
 リッカが鈴を鳴らす。頭に残るメロディを戯れに口ずさんだら、次に舞うときに彼女が覚えていてくれた。一生懸命なリッカ。地上に降りて彼女に一番に会えてよかった。何度も伝えた感謝を今また再び。
「……ルイーダさん。彼女の舞は……」
 グラスを戯れに振りながらトーヤが傍らの女主人に向かってつぶやく。
「どこのものとも知れない。私も結構あっちこっち旅をしたけど彼女の舞は知らない。本人はいろんなところの舞をあわせてみたって言ってるけど」
「おれも、あの動きは知らない。ルイーダさんほどじゃないけどおれもあちこち歩いてる。けど……」
「ま、いいじゃない。彼女の舞は綺麗だわ。せっかく無理言って披露してもらってるんだからしばらくは黙ってみておきましょう。……もしかしたらしばらくお目にかかれないかもしれないし」
 最後は口の中だけでつぶやく。多分ラーズは明日旅立つだろう。この素朴な森人と共に。どうしてだと言われてもはっきり理由はわからないがそんな気がする。そして彼女のカンはよく当たった。
 鈴の音が途絶え軽快なステップが止まる。たまたま鈴を聞いて惹かれてやってきた物好きな人が数人、ラーズの舞に惜しみない拍手を送った。
「ルイーダさん。お願いできるかい?」
「誰を?」
 答えはわかっているが問いかける。トーヤは黙ってリッカと手を取り合って笑う不思議な女を指差した。

 ややあって息があがったままやってきたラーズにルイーダは笑いかける。
「お望みの同行者よ。顔はもう見知ってるわよね?」
「はい。先ほども助けてもらいました」
「こちらはトーヤさん。とりあえず当面北のほうに行く予定」
 言ってルイーダは次にトーヤに顔を向ける。
「で、この子はラーズ。書類にも書いてるように当面世界中を回る予定。それじゃあとは適当に二人で決めて頂戴」
「いいのか? 他の斡旋ならもう少し一緒にいたようだが」
「ええ。私はいつもそんな感じ。じゃあ二人ともあっちのテーブルでお酒でも飲みながら考えて」
 おごりだと真新しいボトルを棚から取り出しラーズに押し付ける。少し困った顔の女だが肩を軽くすくめあいているテーブルに向かう。トーヤもあわてて後を追った。
「ルイーダさんはやっぱりちょっと強引なんです。気を悪くされたらごめんなさい、ええと、トーヤ、さん?」
「ああ」
 強引でもどことなく憎めない雰囲気を持っている。ならばそれはそれでいいのだろうと思う。
「旅立ちはいつにしますか?」
「ん……あ、明日、か? おれは一泊の予定だ」
「わかりました。今晩中に準備します」
「え? おい、おれでいいのか? 自分で言うのもなんだが、明らかな不審者だろ?」
 あまりに簡単に話が進むので思わず問い返してしまった。ラーズは怪訝そうにこちらを見ていたがすぐに頷く。
「はい。一度共に戦えました。だからそれで十分」
「……」
 ラーズがトーヤのカップに酒を注ぐ。あまりこういうことはなれていないのか、ぎこちない手つきで零しそうになる。それを見ながら、なぜ彼女を指名してしまったのか考える。
 ルイーダの話しぶりからすると自分が助けたあの奇妙な女は間違いなくこの女だろう。確かにあの時自分は薄ら寒く思ったし、今でも思い出せば心のどこかで怖気を感じる。
 だが、不思議と目の前のラーズとその怖気は一致しない。むしろ何か安心できるような。彼女の気配を昔から知っているような。
「……あんた、記憶ないんだって?」
「え?」
 一瞬困ったようにルイーダにちらりと視線をやる。けれどすぐに頷いた。
「ウォルロってご存知ですか? あそこでちょっと……地震に巻き込まれて」
「やっぱり……そうなのか」
 何が、と顔に書いたまま首を傾げる。
「いや……こっちの話」
「……?」
 怪訝な表情のままのラーズに、肩をすくめてごまかすトーヤだった。

 なぜ、と思っても答えはない。答えを唯一知っている自分自身にわからないのだからもうどうしようもない。そのうち見つかるかもしれないし、見つからないかもしれない。
 ただ、今の段階で言えるのは、気に入った……その一言につきる。
「少し旅の準備をしてもいいですか?」
「構わない。薬草ぐらいならおれも少しは備蓄があるが……」
「いや、どちらかといわれれば武器の方を少しみたいんです。宿屋の仕事は思ったより忙しかったので、お給金貰っても使う暇がなくて」
「なるほど。おれも矢の補充をしようかな」
 ぎこちない二人は連れだって武器屋に行きああでもないこうでもないと手にとっては戻す。
「あー、無理なんだ……じゃあさ、この辺でほかにこういうの直せる人いない?」
 カウンターで女が主人と話し込んでいるのが耳に飛び込んできた。どうやら得物を直して貰おうとしているようだが。
「なんだろう……棒みたいなもの?」
「んー? ああ、あれは確かこ、こ……」
「棍」
「そう、棍……って、すまないな、話に割り込んだみたいで」
 女がラーズとトーヤをみて笑っていた。
「気にしないよ。この辺じゃ珍しいからね、こいつ。大事に使ってるんだけどたまに調子悪くなることあってさ」
 カラカラと笑う様子がなんともすがすがしい。
「どこで手に入れたんだ? おれが知ってる有名どころは東大陸なんだが」
「ご明察ー。前に護衛仕事があってあっち回ったことがあって。あ、私はフィアレス。その辺にいる傭兵ってやつよ。オフで帰ってきたから直しとこうかなーって持ち込んだところ」
 人なつこいフィアレスと名乗った女はトーヤに説明し、ラーズに笑いかける。ラーズも微笑んで一礼した。
「お二人さんはこれからどこに? 夫婦で旅ってのもいいもんだけどさ」
「ふうふ?」
「あ、いやおれ達はただの旅仲間だ。夕べ斡旋して貰った同士さ」
「そうなんだ。ゴメンね勘違いして。どうも私早とちりばっかりだからさ」
「気にしてない」
 軽く手を挙げてトーヤは矢を一本一本手に取って見定めている。ラーズも剣を、と思ったらフィアレスがトントンと肩をたたいていた。
「ねえねえ、ちょっとこっち来て」
「いいですけど……」
 ラーズを引っ張って日の射すところまで。そこでじっくりと見られた。
「あの……」
「やっぱり! すっごく、すっごく綺麗!」
 ラーズの髪の一房をとって感極まっている。
「私綺麗なもの大好きなの。こんな綺麗な髪の毛、いろいろな人たちと友達になったけど初めてよ」
「そう……なんですか?」
「あーもう、今日はなんていい日なのかしら。得物は直せなかったけどいいもの見たわ」
 一人納得して頷く女に、どう返せばいいのかよくわからない天使。少なくともこんなに人なつっこい人は初めてだ。
「フィアレスさん、これどうするのさ」
 はしゃいでいるフィアレスに慣れた様子で武器屋の主人が声をかける。
「そうだねー。持ち帰っとくわ。使えない訳じゃないしね」
 フィアレスも、ラーズに絡んでいたときとは打って変わってまじめに応じる。その様子はやはり傭兵なのだ。
 主人に棍を返して貰うとほかの長物を見始める。その視線は真剣そのもの。
「……親父。この矢、今何本くらい在庫ある?」
「ああそれね。こないだ入れたばっかりだから五十本ばかりはあったと思うよ。帳簿見てみるからちょいと待っておくれ」
 静かになったその隙を逃すかとばかりにトーヤが今度は声をかけた。矢羽根をいじりながら主人の回答を待っている。ラーズもあわてて剣のところへ。
 おそらくなんでも使えるのだろうとは思う。だが、師からはじめに渡されたのは銅色の美しい剣だった。
「……」
 師のことを思って目頭が熱くなる。天使界の仲間たちを思って叫び出したくなる。けれどなんとかそれを押さえ込み、選び取ったのは、小振りではあるががよく研がれた剣。叩き潰す為の剣ではなく切り裂くための。
「じゃあ、私はこれを」
「ありゃ! こいつ見つけられたのか……」
「ん? 何か不都合でもあるのか?」
 主人の態度を不思議に思ったトーヤが声をかける。ラーズとしては、ただこの剣が呼んだような気がしたのだ。もしそれが本当なら、物の声が聞こえたのは初めてになる。師や上級天使たちなら聞こえると言っていたが。
「いやね、ずいぶん前に出入りの傭兵が売りつけてきて。業物は業物であたしとしても扱ってみたい一品ではあったんですわ。ただね……」
 値段か? とトーヤが聞けばゆっくり首を横にふる主人。手に持った剣は何の変哲もないように見える。
「値段はそこの剣と変わらない値段で売ってくれたんですが、傭兵の言うことには、『こいつには使われたい業があるから、もしかしたら売れないかもしれないぞ』と言われたわけです。事実あなたが手に取るまで二、三年くらいはそこにあったはず」
「そんなに? それはまた……」
「あたしも毎晩在庫整理するとき確認してるからあるのは確かだし、毎日一番目立つところにおいてあるのにですよ。お城の兵隊さんがたまに顔出してくれるんですがね、そんな彼らにも見つけられなかったようで」
 手にとって渡さなかったのかと聞けば、売った傭兵の気迫が思い出されてとてもではないができなかったという。
「道具にも使われたいって気持ちがある……まあわからんでもないですわ、こんな商売してるわけですし。少しは信じてみようかな、と。まあ、もしも本当に心が剣にあったとしたら、下手な人間に売った日には枕元に突き刺さってそうでね」
 冗談めかして主人が笑った。
「そういうわけです。お客さんが見つけたんだ、お客さんが使うといい。あたしの目が腐ってなかったらその剣はかなりいい剣だ。手入れのしがいもあったよ」
「……」
 ラーズは改めて渡された剣を見て、よろしく、と心でつぶやいた。


 今後どこへ向かうか。ラーズはトーヤに話を振ってみた。
「……っていっても、おれも用事があるってわけでもない。すべて気の向くまま、梢の導きのままに動くわけだ」
「梢の導き……」
「聞いたことないか? おれ達の間での言い回しだ。ダダマルダのある大陸だと有名なんだが」
「ダダ、マルダ……」
 夕べ眺めていた地図を頭の中に思い浮かべる。北東の方の広い大陸にそんな地名があったような気がする。
「あんた、結構世界回ってるように言ってた気がするが?」
「私がですか? そんなに回っていませんよ」
 ルイーダさんだろうな、と頭を抱える。しかしそもそもが旅芸人というふれこみなのだ、世界中を回っていてもおかしくないと認識されているのだろうか。
「ラーズのほうはどこか行きたいところあるのか?」
「知識の多いところ……どこか心当たりありませんか? 正直な話をしてしまうと、このあたり周辺ぐらいしか、ちょっと」
 だんだんトーヤの目が疑問系になってきたのを受けて少し口ごもる。しばしの沈黙の後、納得した。
「そうだったな。あんたは記憶が確かなかったんだっけ。そりゃ仕方ない」
「……ええまあ」
 記憶がない。この状態はなんと都合がいいのだろう。心の中でこの人の良さそうな素朴な旅人に謝る。そしてもう少しウォルロ以外の地域について学んでいなかった自分の勉強不足を呪った。
「知識のあるところっていったら、やっぱこの辺だとここが一番なんだよな。特にここの姫さんが持ってる蔵書がすごいって、酒場の噂に聞いたことがある」
 セントシュタインの姫君の所蔵は一般人に開放されており、持ち出しは住んでいる人だけだが閲覧は旅人でもできるようになっていた。
「ああ……それは当たってみたんです。けれど目的の知識はなくて……」
 毎日、仕事の休憩時間に足繁く通っては本を読みあさった。だが目的の知識……失った力、翼やハイロゥを取り戻す方法はなかった。それにこの国の知識は特定の時代以降の物しかない。そういった遺失した力を元に戻すための知識は古い知識、ここにある物ではどうしようもなかった。
「へえ、特定の時代以降……歴史にはあんまり興味なかったがそう言われてみるとちょっと気になるな」
「とにかくそういうわけでもっと古い知識があるところを当たってみたいんです」
「そうか……そうだな」
 顎に手を当てて考え込む。
「うーん。たしかベクセリアって街に学者が居るって聞いたことがあるな。学者が居るなら本もあるんじゃないか?」
「そうですね……行ってみていいですか?」
「構わないさ。そのうち行ってみようと思ってたところではあるしな」
 背の弓を背負い直してトーヤが笑った。

 大門から出て地図を見直す。どうやらベクセリアという街は川を越えた北の方にあるらしい。
「街道沿いに行けば十日もかからずいけそうですね」
「街道、か……」
「どうしました?」
「あー……悪いけど、森……抜けていってもいいかな?」
 最初に言っておけば良かった、と頭を掻く。どうも彼が旅にでているのは修行の一環であり、その一つが山を歩くことだそうだ。
「今までもなるべくそうしてきたんだ。それで一人旅のことが多かったんだが……」
 好き好んで街道をはずれる旅人はいない。一つはずれれば魔物も盗賊も多いのだから。
「かまいませんよ。私はどういってもいいから」
 その方がいいのかどうかは知らないがラーズは特にこだわりはない。むしろ同行してくれるだけでもありがたいほどだ。なのでできる限り彼のいうことは聞こうと思っている。
「ならたぶん足す五日ぐらいになりますか。……飛べたら一日だけど」
「うん?」
「あ、なんでもないです。気にしないで」
「……ああ」
 疑問符に満ちた顔をするがそれ以上追求はしてこなかった。
「食料は心配するな。おれが調達できるから」
「あ、はい」
「ただ、その……調理の方はおれは焼くか適当に煮るだけしか出来ないんだ。だからその……」
 バツが悪そうに頭をかく男ににこりと笑った。
「いいですよ。一通りくらいなら出来ます。おいしいかどうかは……わからないですが」
「すまないな」
 ラーズ自身は無理に食事をとらなくてもいいが人はそうはいかない。そして、人の形をしたものが人が食べてる隣で黙って突っ立っていると非常に落ち着かないというのは、ウォルロで暮らしたときにしみじみとわかった。リッカが何ともいえない顔でこちらをみているのだ。
 それに知識としては料理の方法を持っている。地上に降りる前、地上のことを狂ったように学んだ時期があった。
「じゃあともかくいくか。ここで突っ立ってても仕方ない」
「はい」
 しばらく街道を進み、人が切れたところで道をはずれる。確かに魔物の数が少し多い。
「街道沿いは一応兵士たちが巡回路にしてくれてるからな。巨大獣なんかも一緒に討伐してくれている。けど一歩入るとこんな調子だ」
 それでも少ない方なんだよ。心の中でラーズは続けた。この土地にも天使がいる。その天使が人に害なす魔物を狩っているはずだ。
「もしかしたら……あえるかもしれない」
 この土地を守護する天使に。人知れず戦う天使に。知らず心が高揚してくる。出会えればもしかしたら帰る方法も。
「ははっ、何だろうな。人と一緒に旅をすることは初めてじゃないが、妙に興奮してやがる」
 ふいにトーヤが笑う。そういうものかとラーズは剣を抜き、露払いを始めた。
 しばらく進めば森はすぐ深くなる。できれば深いところを、とトーヤが願うのでもっと奥へ。日が届かなくなる、そんなところまで。
 魔物に襲われそうになったものの大した相手ではない。剣の腕前はまだまだだが無銘の剣に助けられたし、そもそも師の訓練の方がよほど厳しかった。それにトーヤの弓の腕前もたいしたもので、ラーズが気づかないほど高い位置にいる魔物を射抜いていく。
「すごいですね。私の方が足手まといです」
 純粋にその技にラーズは感動した。天使にも弓を得物とする仲間がいたが、人の身でここまでとは。
「うーん。親父なら一本で三匹ぐらいしとめるからな。おれとしてはまだまだだ」
 聞けば、彼の一族はダダマルダと呼ばれる森一番の使い手で、一人一人が下手な兵士十人分に相当するとかしないとか。ラーズにはあまり想像がつかない。今度、ダダマルダ近辺の守護天使に話を聞いてみなければ。
「そろそろ野営の準備するか」
「まだ日は高いですよ?」
「いや、たぶん一雨くる。だからほら、あそこ」
 指さした先に洞窟がある。のぞき込めば対して深くない穴。
「ここで寝る準備をした方がいい。まあみてろ、すぐ来るから」
 男の言葉に半信半疑だったラーズだが、乾いた枝をそれなりに集めたところで一気に降り出した。
「な? 森とか山の機嫌を読むのは得意なんだ」
「本当ですね……」
「この洞窟自体、入り口に向かって降りるように傾斜してるからよっぽど雨が降らない限り水が入ってくることもないようだし、ちょうどいいところだった」
 いわれて初めて洞窟自体に注意を向けた。自分はそこまでみていなかった。むしろ、みることが出来ない。
「ん? そんな落ち込んだ顔するなって。おれはもう森の中を旅して長いんだ。あんたは初めてだろ?」
 頷くラーズ。
「なら別にどうってことはない。出来ることを出来る奴がする。それでいいさ。だから飯は頼む」
 悪戯っぽくトーヤが笑うので、ラーズの心も少し凪いだ。

 夜半。雨は止み、魔物除けと熱源確保のためのたき火に枝をくべていたラーズは妙な気配を感じた。洞窟の奥からではない。外から。
 どこから? あの木のむこう? あの下生えの奥?
 気配を探り闇に目を凝らす。
「あ……」
 思わず声を出して、傍らで寝ているトーヤをあわてて見る。起きた様子はない。
 もう一度外に目を向ける。間違いない。何かがいる。天使か、幽霊か、そういったたぐいの存在が。
 もう一度トーヤに目を向け、意を決して洞窟から出た。火元から離れるとひどく寒さを感じる。みぶるいしそうになったが耐えて気配を消し、そっと妙な気配の方へ向かう。
「……」
 藪の向こう側に少し開けたところがあった。そこに、在ったのは。
「……誰?」
 向こうは全く気づいていない。思わずラーズの方から誰何してしまう。
 薄い衣をまとって金色の髪をたっぷりと背に流す。その背にはあきらかに人ではない、かといって天使でもない薄い羽。そんな存在が半分怒りながら星に向かってひたすら何かを言い続けている。
『ひっ! ま、魔物魔物!』
「魔物じゃないって……というか、あなたの方が魔物に近い気がする……」
『失敬な! この可憐な美少女をつかまえて魔物だなんて!』
 おびえから一転、今度はラーズに向かって怒り出した。その変わり身の早さにこちらが空恐ろしい気分になる。
『あんたなんなのよ!? ……アレ? アタシのこと見えてる?』
 今度は警戒。とりあえずラーズは頷くだけにしておいた。
『じゃ、じゃあ……天使とかエルフとか?』
「私はラーズ……天使」
 これでも。ハイロゥも翼もないけれど。
『ええ? まさか、ンなはずないじゃん。翼ないし』
 案の定つっこまれたので軽く説明する。そして小さな光を生み出して見せた。これは純粋に光の力。地上の存在には決して出来ない芸当だ。
『ホントに天使なんだ……ま、まあアタシもあの衝撃でヒドい目にあったクチだから、お仲間ってトコね』
 ソレは頷いてラーズの目線に飛び上がってきた。
『アタシはサンディ。可憐な美少女にして天の方舟運転士! ……見習いだケド』
 少しだけかわいいところあるかもしれない。ラーズは場違いにも、そんなことを思ってしまうのだった。


TO BE CONTINUED


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