その隊士、ヘルガ・ブレヒトは緊張で何がなんだかわからなくなりそうだった。おかげで目的の人物が来て怪訝そうに覗き込んできて、初めて状況を把握する羽目になってしまった。
「おい……そこの兵、何か用事か?」
「はははい! 私、あの、いや、自分は取材に!」
「取材? ……とにかく落ち着いてくれないか? ここでは人目もあるので部屋に入ろう」
「はっ、はい!」
 必要以上に大声になったがそれどころではない。機会が無く近くに寄ることも無かった憧れの大隊長が目の前にいる。そのことで頭が一杯になってしまった。
「取材というのは?」
 椅子を勧められながら問いかけられたがすぐに反応が出来ない。辛抱強く待ってくれているユリアに気が付いて慌てて自分の持つ書類を繰った。
「ご、ご連絡は届いていらっしゃいませんか? 軍の機関誌の特集が親衛隊ということになって、その記事の一つに大隊長殿の一日ということになりました」
 早口にまくし立てる。それでもなんとかユリアは言いたいことを理解できたようだ。
「そういえば……この辺に」
 机の上にある紙の束から一枚取り出す。
「これのことか?」
 ユリアが差し出してきた書類を見てうんうんと頷いた。書面には簡単にヘルガが今言った内容とカシウスの署名がある。
「関係各所には許可はもらってあります。あとは大隊長殿のご都合のよい日に、一日付いて回らせていただければと……思うのですが」
 決していけないことを言っているわけではないのになぜか声が小さくなってしまう。呆れたのか、仕方がないなというように上司は頭を振った。
「わかったわかった。明日でいいか? こういう仕事はさっさと終わらせるに限る」
「は、はい! 諒解いたしました!」
 そんなにすぐに決めてしまっていいのか、色々と考えるがつつがなく自分に与えられた仕事は終わりそうだ。できればもう少しお近づきになれれば……そんなことまで先走り気味に考える。
「……その前に大事なことを忘れていたな」
「えっ……」
「そう暗くなるな。だが大事なことだ。……名は?」
 一瞬何を問われたのかわからなかった。その後満面の笑みをこぼす。
「ヘルガ・ブレヒトと申します! よろしくお願いいたします!」
「ああヘルガ、一日だけだが宜しく」


 早朝四時半。
 ヘルガは親衛隊士ではあるがユリアとはほとんど接点はない。高所は苦手の為飛行艇勤務は無理でアルセイユや他の飛行艇は下から眺めるだけ。運動も得意ではなく、実戦訓練の時には大抵足を引っ張る係になる。どうして隊士になれたのかいつも疑問視されるのだが、事務処理能力が極端に高いので、常に書類がたまりがちな親衛隊に引き抜かれた。あまりそちらに特化した人間がいないのを解消したいという、女王や軍上層の意向でもある。
 それはそれとして、ヘルガ自身も運動は苦手であり、また必ずしも前線に立つ必要はないので、自由参加の早朝訓練には顔を出したことが無い。だからこそ最初にユリアから、
「では明日四時半に兵舎訓練場へ」
 と言われたときには心底からどうしようと思った。四時半は朝の四時半なのだろうか、夕方だと一日密着取材にはならないと思い直し、恐る恐る聞いてみるとやはり早朝のこと。訓練自体は五時過ぎごろからはじめるがユリアは先に行って体を慣らしているのだという。
 半分泣きながらベッドと別れを惜しみ、ようやく訓練場に出てきたのは少し遅れて四時四十分。既に準備運動はそれなりに終わっているのだろう、少し汗ばみ上気した顔と対峙することになった。提示された時間は決して早すぎるというわけでもなく、何人か隊士らしき人間がいる。自分にはとてもでないが無理な相談だ。
「おはようございます……」
「ヘルガか。少し遅刻だな。今の時期は早朝は確かに辛いものだが」
 指摘されてうつむくが、そればかりでは自分の仕事が出来ない。めげずにどういう運動をしたのかを一つ一つ聞き、やがて本訓練の開始時間になった。行きがかり上参加をすることになり内心冷や汗を流しつつも、自分も親衛隊士の端くれとばかりに飛び込んでいった。
 五時からの訓練、二時間。内容、基礎体力作り。


 午前七時半。
 全軍中一番美味しいといわれる王都兵舎の食堂。その端に果物を数切れ放り込んだだけで朝食を受け付けないヘルガがいた。というより、既に疲れ果てていてどちらかというと眠りたくてたまらなかった。かれこれ二十分ほどパンを目の前にしているがどうしても食べようという気になれない。
「おなかは減ってるはずなんだけど……」
 普段はレイストン勤めなので違う場所の食堂に行くのは楽しみのはずなのに。仕方がないと頭を振り、パンをつかんで皿だけ返しユリアの執務室へ。訓練が終わると同時に書類仕事を始めたのでまだ食事は取っていないはず。一緒にいたほうがいいのだがヘルガでは閲覧を許可されていない書類を扱うとのこと、そのために少しだけ別行動をすることにしていた。
「食事はどうだった? 美味しかっただろう、少なくともレイストンよりは」
「あ、ええはい……」
 なんと答えたものか、あいまいに答えるだけにしておいた。
「九時からまた訓練だ。今度は王都警備隊と合同訓練になるので朝よりは激しくなるぞ」
「は、はい……」
 もっと激しい訓練となると一体どうなるのだろう。とりあえず執務室の隅でメモの整理をさせてもらうことにした。視界の端で窺うと書類はまだまだたくさんあり、全て片付けるにはまだ多少の時間がかかりそうだ。
「その書類……急ぎなのですか?」
「ああ。九時までには終わるだろう。朝のこの時間のほうが疲れも少ないし一番はかどる。……聞けば君は事務処理能力を買われて入隊したという。手伝ってもらいたいとは思うが残念ながら自分が決裁しなければならない事案ばかりでな」
 手伝いましょうかといいかかるのを制され、片目を閉じて断られた。意外にお茶目な部分があるとこっそりとメモに書き付けているうちにふと思った。一体ユリアはいつ朝食を食べるのだ。
「朝食? そうだな、これが終われば食べにいく」
「しかし……終わらなかったらどうなさるのですか?」
「そのときはそのときだ。多少は無茶ぐらいできるぞ。それにこいつをどうにかしておかなければ、隊士たちの使用する諸々の品が切れてしまう。そうなると陛下たちをお守りすることが出来なくなる」
「……」
 書類を一枚借りると弾薬などの消耗品の発注取りまとめ書。各部署で発注はしているようだが最終的な承認はユリアが行わなければならないものばかりだ。ヘルガにはどうすることもできず、以後は黙って自分の仕事に専念することにした。
 七時十分より最優先の書類仕事。


 午前十時四十五分。
 先ほどまで水の中にいたので体が冷えて仕方がない。朝食をまともに取っていないので力が出ないというのもあり心底から参りかかっていたが、未だに水の中での訓練を続けているユリアを見ると弱音を吐くことも出来ない。最近湖側からの魔獣襲撃が多く、それに対応した訓練をしようという風潮らしい。
 まず第一関門は水に入る時。入ってしまってしばらくすると慣れるというか感覚が麻痺してくるのでそれなりに平気になるが、それまでは地獄の寒さだ。次はオーブメント操作等の細かい作業を水中でいかに早く行えるか。手が思うように動かず、思わぬ失敗をしてしまう兵も多い。ヘルガも当然のように失敗をしてペア相手に微妙な表情をされてしまった。
「君はしばらく上がって見学をしているといい」
 ヘルガの組の班長に言われ、仕方なく岸で毛布に包まっている。メモ書きをする手が震えて上手く字が書けないのでしばらくユリアを眺めてみることにした。
「……ご飯あんまり食べてないはずなのに、どこからあんなに体力が出てくるんだろう」
 書類は合同訓練開始までにはなんとか目を通し終わり、ほんの僅かの間だけ食事を取る時間が出来た。料理長に申し訳ないと悲しそうに笑いながら流し込むと集合場所へ。それからずっと水に浸かりっ放しなのに的確な指示、細かいところへの配慮はずっと続いている。
「もしかしたら人間と違うんじゃないかしら」
 馬鹿げた考えだがきっと他人に洩らしてもそれほど馬鹿にされないような気がした。
 九時より王都警備隊と合同訓練。


 午後一時。
 ヘルガはレイストンに戻ってきていた。体が微妙にだるいのは早起きと水泳のせいだろうなとぼんやり。取材対象であるユリアは会議でいない。本来ならアルセイユの飛行訓練を行うはずだったのだが急遽会議が入りそちらに行くことになった。さすがに会議の中までついていくわけには行かないが、幸いにしてヘルガの職場はここにある。会議が終わるまで日常業務をするということで話がまとまり、今は自分の机に戻ってきていた。
「どんな感じ?」
 同僚が興味津々で聞いてくる。
「とりあえず眠いわ。朝早くから一緒にいるけど……」
「貴女のことじゃないわよ、大隊長殿のこと」
「……」
 色々な思いを込めて同僚を睨むが聞いていないようなのでやめた。
「とりあえず、とにかくすごい人。体力ありすぎ。今日、今までの行動だけどこれ見てちょうだい」
「……うそ」
 今まで取っていたメモ書きを渡すと同僚は呆れた声を出した。
「ウソじゃないよ。そんなこんなで昼ご飯も流し込んで今延々会議中。ちなみに昼に執務室に戻ったら、朝なくなってた書類がまた増えてた。あれ一体いつクリアにするんだろう」
「准将殿も大概仕事人間だけどねぇ。その代わりというか、一般兵のダラダラぶりはどうなのって言いたくなるけど」
「確かに。書類出せって言ってるのに出さないのはハラ立つ。あんたたちが遅くなるからしわ寄せが上に行くのよーっていつもいうけどさ」
 ひとしきり同僚と仕事の愚痴などをいい、結局ろくに日常業務は進まなかった。
 十二時三十分から特別会議。同時進行で飛行訓練の状況は受け取っていた模様。


 午後四時半。
 こざっぱりした通路をおっかなびっくり歩く。高所恐怖症のきらいがあるのは自覚しているので飛行艇には近寄るまいと心に誓ったのだが、ユリアの取材ができるということの方が大きくて思わず受けてしまったのは不覚だったと思う。
「足元に気をつけて」
 案内をしてくれるのはアルセイユの副長テニエス。柔らかな物腰はシードを思い出させる。
「ちょっとしたトラブルが起きたため先に艦に搭乗したことを艦長に代わり、謝罪する」
「あ、いえ、そんな……別に気にしておりませんので」
「それにしても艦長の一日を追っているとは……大変だろう」
「……」
 苦笑いでごまかすとテニエスも苦笑した。
「一応艦橋も見てみるか? ここを記事にするには女王の許可が必要だろうが……」
「あ、お願いします……」
 つれてこられた艦橋は広く、数人の隊士が計器に向かって作業をしていた。ユリアは機関室の方に行っているのでここにはいないが、艦橋組の仕事振りはたいしたものだと思う。
「……どうしたの副長。こちらは?」
「聞いているだろう、機関誌の特集の為、取材中だそうだ」
「へぇ。あれはいつ誰が発行してるんだろうと思ってたけど、こういう人が地道に取材してるんだな」
 操舵席に座りながら男がにこにこしている。確か彼はルクスと言ったはず。先ほど副長に問い掛けてきたのはエコーで、軽く手を振ってくれた男性がリオン。クルクルと椅子に座って回っているのがティアナ砲術士。
「取材部署が確実に決まっているというわけではなく、事務方の部が持ち回りで特集案を出しているんです。それを発行する部署にもっていって機関誌にしてもらっています」
「そうなんだ。事務仕事も大変だよね。やってくれないと軍全体が回らないしさ。親衛隊の書類もなかなか回らないので有名だった気がする」
「皆さんお忙しいですからね。それはこちらも覚悟をしてます」
 ヘルガが笑うと申し訳なさそうにリオンとエコーが頭を下げた。ついでにエコーはルクスの襟首を掴んで頭を下げさせる。
「……ごめんなさいね、彼が一番あなた達のお仕事を滞らせていると思うわ……」
「苦しいからやめろって……お、通信だぞ」
 小さな機械音。リオンが受けるとユリアだった。
『今エンジントラブルはどうにかなった。そろそろまた訓練開始だから待機をしていろ。ところでヘルガ隊士はそちらにいるのか?』
「はい、おりますが」
『なら会議室で今後のことを話すと伝えてくれ、以上』
「諒解」
 通信を受けて会議室へ。今度のこととはなんだろうと思いながら待っていると、ややあってユリアが入ってきた。
「待たせてすまない。それに君を置いて先に搭乗したことは謝罪する」
 頭を下げられて一瞬あっけに取られた。
「頭を上げてください大隊長殿! その件については十二分に承知してますので!」
「そうか? 申し訳ない」
「いやいやいやいやいいですから!」
 ユリアを座らせて自分も席につく。
「せっかく取材なのに少しも話が出来ていないな。バタバタとしていて申し訳ない」
「大丈夫です。記事にできるだけのメモはきちんとたまっていますので」
「それを見せてもらうことはできるか?」
 言われるままに差し出すと一つ一つに目を通し始めた。そういえばメモの端に雑感を書いていたのまで出した気がする。気が付いて背筋が震えるが仕方がない。ユリアの視線を追いながら自分の迂闊さを後悔しても、もう遅かった。
 やがてメモから顔を上げる。どう判断していいのか、一言ではいえない表情だ。
「……とりあえず約束をしてくれ。文章にするのは君だろうが、一度提出前に自分に見せてもらえないか?」
「はい……諒解しました……」
 穴がそこにあるならまっしぐらに入り、もう二度と出て来ないだろうといわんばかりに小さく返事をした。
 四時二十分頃会議終了、アルセイユエンジントラブルの報有り、そのまま搭乗。


 午後五時十分。
 そうそう簡単に穴が見つかるわけも無く、ユリアがそれ以上深く突っ込んでは来なかったので幸いとし艦橋で見学をすることにした。内心の恐怖を外に出さないように、なるべく外を見ないようにとしているが、大きな窓からは雲が流れる様や地上の様子が見えてきてどうにも落ち着かない。発進時のやりとりは格好良くて好きなのだが。
「このまま夜間飛行訓練に入る。訓練だが不審な動きをするものには注意を払え」
「諒解」
 艦橋組に指示を出し終わったユリアがおもむろにヘルガのほうへ向いた。
「……医務室なら窓が無い。そこで横になっているとまだましだろう」
「申し訳ありません……」
「いや、苦手ならば遠慮なくそう言ってくれればいいのだ」
「……」
 何かを言おうと思ったが諦めた。他の隊士に案内されるままに医務室へ行き、何も言わずにベッドへ倒れこむ。しばらく大人しくしていると、驚くほど振動が無いことに気が付いた。
「これだと自分が高いところにいるって、あんまり意識しなくていいわね」
 仰向けになり天井を眺める。掃除が行き届いている、綺麗な船だ。
「憧れなかった、って言ったらきっとウソになる」
 高所が怖いのは仕方がないが、それでも親衛隊に入隊したとなればやはりアルセイユは最高峰だ。それに関わる仕事につけたらと思ったこともある。けれど、結局艦橋にいるだけで顔が蒼白になるようでは無理なようだ。
「取材自身は面白いけど、こうはっきりと理解しちゃうと寂しい」
 そのまま、ヘルガは朝からの疲れもあり淡い眠りに落ちた。
 四時五十分、夜間訓練開始。


 午後八時。
 差し向かいで食事をしながら今後の予定を聞いた。
「そうだな、思ったより不審なものが見えたからそれの報告と、おそらく机の上に書類がたまっているだろうからそれを片付けに王城へ戻る」
「ま、まだお仕事されるんですか……?」
「疲れたならばこの後の簡単な予定は自分が書いて、明日にでも届けさせるが」
「いやそうではなくて、大隊長殿の体が心配で……」
「大丈夫だろう。食事を取る時間くらいはある。昔はもっと酷くて、食事を取る時間さえなかった」
 聞けばレイストン勤務時代は睡眠もろくに取れない時期があったという。確かにそれに比べればましといえるのだろうが、そういう問題ではないとヘルガは頭を抱えた。
「そういう時は部下をちゃんと使ってください。そのためにいるのですから」
「いや、自分はそうは思わないな。部下や最前線にいる人間が円滑に動けるようにするのが我らの仕事。我らにはもう出来ない、大事な仕事をしてもらう方がいいと思う」
「そういうものですかね……」
 納得は出来ない。出来ないのだがユリアが立ち上がったので仕方なく引き下がった。もう少し部下を使えばこの生活も楽になるだろうと思う。
「それをしないのがあの人であって、だからこそあの人のためになら動きたいって人が出てくるのよね」
 なかなか皮肉なものだと思いながら、ユリアの後について城に戻ることにした。
 七時四十五分、報告会後に夕食。

 午後九時二十分。
 気を使ってはくれたが結局飛行艇で王都まで。恐る恐るといった様相で部屋に戻った主は、机の上の書類の山に絶句していた。ヘルガも後から続いて入り、溜息しか出てこない。
「確か、午前中にほとんどの書類は片付けていたはずでしたよね……」
「まあ毎日の話だ。今日も兵舎には戻れないな」
 肩を回しながら書類を一つ一つ手にとって見ている。流れるような動作を見つめていたがふと手が止まった。声を掛けようとすると目が合う。にこりと笑ってそれを引出しの中にしまいこんだ。どうも手紙のようだが余り判別は出来なかった。追求するわけにも行かないので別の言葉が音になる。
「今は何かお手伝いできることはありますか?」
「いや、大丈夫だ。今日も日を越えるだろうから君は引き取ってくれて構わないよ」
「……そうですか?」
「ああ。あちこち連れまわして悪かったね。あと、記事はまず自分のところに持ってきてくれ」
「…………諒解しました」
 食い下がったら食い下がっただけやんわりと断られる気がしたので部屋を辞す。扉を閉める直前には既に書類にサインを始めていたのが見えた。
 九時半頃より残りの書類仕事開始。深夜の見張りも交代する可能性。


 正攻法が無理なら搦め手だ。そう呟きながら次の日基地にいくと、ユリアのところへ回る書類、ユリアのところから戻ってきた書類をチェックし始めた。同僚が一体どうしたんだと言うのも構わず、一月ほど前の書類からずっと再確認。午後になって同僚に文句を言われてようやく口を開いた。
「だって、書類仕事減らさないといつか私たちの大隊長、死んでしまうよ」
 言いながら一日の流れを伝える。
「慣習で全部大隊長の印が無いと駄目ってしてあるけど、それは忙しくないならできることじゃない。御座船の艦長まで兼ねてる大隊長なんかリベール歴史上存在しなかったんだからさ。見てきたけどすっごく忙しいの」
「艦長の職責だけじゃないもんな。レイストンや王城組も全部あの人のところに行くだろ?」
 聞いていた同僚の一人が頷く。
「ちょっと面倒だけど、大隊長のところまで行かなくてもいける書類って言うのを探してみようと思って。せめて夜は早く寝て欲しいわ……」
 詰所にいる友人に聞くとやはり深夜まで書類仕事をしていたそうだ。そんなことが続くのは絶対に良くない。だがあの性格なら、面と向かっての手伝いは拒絶する。
「それでこうやって、元から行く書類を減らそうって話か。よし乗った。大隊長のところまで回らないってことは、それだけ書類が早く帰ってくるってことで、俺たちの仕事も少なくなるしな」
「そうそう、それいいわ」
 こうやって一致団結したが、その後ユリアの所に回る書類が少なくなったかどうかは記録に残っていない。けれどそのときの機関誌はすぐに在庫もなくなったという。


Ende.


 88888リクエストで「隊士が追うユリアさんの一日」ということでした。ずっと常にユリアさんのそばにいる隊士というのはいなさそうなので取材の形に。本当は副官はつけるべきなんだが本人は遠慮してそうだ。アルセイユだけは手が回らないのはわかりきってるから譲歩してるイメージ。直接言っても絶対聞かない人だろうので周りが仕事を回さないようにという方向に。でもそれはそれで仕事探してきてやるような、そんな気もする。
 リクエストありがとうございました!

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