当面の食料などを買い込み、店から出てきたところをアイナに見つけられた。
「エステル。こんなところにいたのね?」
「ああ、アイナさん。どうしたの?」
 あちこち探していたようで少しあがった息を整える。
「家に連絡したら街にいるって言われて……。あなたに会いたい、って人たちが来ているのよ」
「会いたい人?」
 きょとんとした表情で返すエステル。それだけをみると、とても正遊撃士とは思えないほど幼い。
「ええ。とりあえずギルドにきて」
「うん、わかった」
 買い込んだ一式を抱えなおしアイナの後についてギルドへ入る。
「お待たせいたしました」
「いや……俺は別に構わないのだが……」
 アイナが挨拶をする相手は男性。何とはなしに張り出されている依頼をみている男は、簡単な旅装束をまとってはいるが、もつ雰囲気は軍人のそれ。黒い髪を短く刈り、鋭い眼光が印象に残る。だが、今は少々困ったような表情だ。ただ、エステルはその表情をよく知っている。
「ミュラーさん!」
 カウンターに荷物を置きながら明るく声をかける。
「お久しぶり。今日はどうしたの? もう国に帰ったんだと思ってたんだけど」
「ああ、久しぶりだ。君も元気そうだな」
「もちろん!」
 帝国軍少佐に向かって恐れも無くものをいえるのは彼女ぐらいだろうな、と内心妙な感心をしながらアイナは二人のやり取りを見守る。ギルドに訪れた時は見る者を萎縮させる軍人の気配が色濃く出ていたが、今は穏やかな笑みさえ浮かんでいるのに気が付く。
「それが、あの子の力なのかもね」
 カシウスとは違った力で他人をひきつけられる力の持ち主だ。エステルの置いた荷物を業務の邪魔にならないところに置き、二階で報告をまとめると言ってその場を辞した。
「誰か依頼人がくるか、出る時には呼んでちょうだい」
「わかった」
 アイナに返事をしミュラーに向かう。
「で、あたしに会いたいって、ミュラーさんだったの?」
「いや、オリビエなんだが……」
「オリビエ? それこそ帝国に戻ったと思ってたんだけど。って、いないじゃない」
「今まさに帝都への帰路だ」
「えええっ!?」
 驚くエステル。帝都へなら、グランセルから出ている国際定期船に乗れば半日程度で戻れる筈。それが何故、こんな田舎街にいるのだろう。不思議でならない。それによくみれば陸路の旅装束だ。
「まさかと思うんだけど……王都から歩いてきたとか?」
「そのまさかだ。あのお調子者、どうあっても定期船に乗ろうとせず、捕まえては逃げ出すの繰り返し。王都のギルドに何度依頼をしたことか……」
 溜め息をつきながら思い出す。オリビエの奇行に新たな一ページが加わったようで、エステルは悪いとは思いながらも肩を振るわせる。
「笑い事ではないぞ」
「ごめんごめん。あたしもアイツを捕まえたことあるからさ。みんな大変だったろうなぁって思って。知らない人があの言動見ると、絶対意表突かれるもん」
「確かにな。それは認める」
 脱走を繰り返すこと数度。追っ手を例の言動で煙に巻き行方をくらました挙句、港で貨物に紛れて出港するところを辛うじて取り押さえたり、エルベ離宮で何食わぬ顔をして個人リサイタルと称してリュートをかき鳴らしていたり。
「うわ……パワーアップしてない?」
 心底呆れた表情をしてエステルがつぶやくと、男も苦虫を噛み潰したような顔になる。
「全くだ。その度にセントハイムとグリューネを閉鎖してもらったよ。クローディア殿には非常に迷惑をかけてしまった」
「クローゼ……そっか、そーいうお仕事もするようになったんだ……」
「そうだ、伝言を預かってきた」
「伝言? クローゼから?」
「ああ。帝国に戻る為王城へ報告を兼ねて挨拶をしたのだ。その時だ。『いつでも訪ねてきてください、またお茶を飲みましょう』と」
「……ありがと、ミュラーさん」
 親友は今でも自分を友と思っていてくれている。たまらなくうれしい。呆れた表情から一転、満面の笑みがこぼれる。
「君は表情がよく変わるな」
 つられてミュラーも微笑む。
「子どもっぽいって言いたいんでしょ!」
 今度は少し頬を膨らます。
「いやいや、そんなことはない」
 手をあげながらなだめる姿は、とても普段からは想像がつかない。
「って……その時点でクローゼは、ミュラーさんたちがロレントを通るって知ってたわけ?」
「ああ。それもオリビエの奴のせいだ。さっきも言ったが、奴はどうしても定期船に乗ろうとしなくてな。どうせ最後なんだからもっと観光してから戻るとかぬかして」
「……監視?」
「…………そのとおりだ。千歩ほど譲って監視付きで陸路を行くことになった。他の誰も奴の監視なんかできないから、俺のところに回ってきたわけだ。まあ、俺も駐在任期が切れるからな。ちょうどいいと言えばいいんだが……」
「なんというか……本当に、お疲れ様……」
 ぽんぽんとミュラーの肩をたたく。
「ミストヴァルト辺りで行方くらましたりしなかった?」
「あの森のことは知っていたからな。用心したよ」
 肩をすくめながら片目をつぶる。
「でさ、なんでオリビエ今いないの?」
「シェラザード君が先ほど来てな」
「シェラ姉が?」
「どうやらアイナ殿に報告をしに来たようだが、オリビエの顔をみて引き返したわけだ。心底嫌そうな顔をしてな」
「あははは……」
「よせばいいのにその後を追いかけていってしまい、未だ戻らず、だ。俺はアイナ殿に頼んだ手前もあるのでここから動けないし、と思案していたところ君が来たというわけだ」
「ほんと……相変わらずだこと……。でもさミュラーさん」
「なんだ?」
「シェラ姉なら大丈夫よ。きっと逃げようとするオリビエ捕まえてここに戻してくれるから」
「確かにな。そう思ったからそれほど心配はしていない。それに、ここならヨシュア君に頼んで奴を探し出してもらえるだろう」
「うーん。まぁヨシュアならすぐ見つけそうだね」
 何かを思い出すように虚空を見上げる。その様子をそっと見守るミュラー。と、彼が腰に下げている剣を指す。
「ミュラーさんも、相当な達人なんだってね。一度、手合わせして欲しかったかも」
「ヨシュア君から聞いたのか?」
「うん。すっごく強かったって。いいなぁヨシュア。そんな人と手合わせできたなんて」
 うらやましそうにみる少女に声を上げて笑った。
「ははは! そんなところでうらやましいとは!」
「だって、強い人がいたらとりあえず手合わせしてもらうでしょ? ジンさんとか、ユリアさんとか、シード中佐にもしてもらったし。……父さんにはまだ挑めないんだけど」
「カシウス・ブライトか。君に棒術を仕込んだのも彼だろう?」
「うん。キビシイったらもう。あのころは死ぬかと思ったよ」
「そうか。俺の方こそ彼に手合わせしてもらいたい。自分の技がどこまで剣聖に通じるのか」
「でしょ? だからあたしは、ミュラーさんと手合わせしてみたいの」
 ミュラーも根っからの武人だ。こういわれて嫌といえない。
「そうだな。今は無理だが……いつか帝国へきた時訪ねてくればいい。その時で構わないか?」
「ええ、いいの? 言ってみるもんだわ」
 やったーとガッツポーズをとるエステルに微笑みかける。
「まあ、いつになるかはわからないがな」
「あ、それなら大丈夫。近々ハーメルにいくのよ、ヨシュアと一緒に。その時寄らせてもらってもいい?」
「ハーメルへ?」
 今回の軋轢の一番の原因と言える、滅んだ村だ。そんなところへ行ってどうするというのだろう。
「うん……ヨシュアのお姉さんがいるから、いろいろ報告」
「そうか……よし、俺も城へ戻ってから鍛錬をしよう。君に負けないように」
「そんなことないよ。あのヨシュアを退けたんだから。あたしじゃまだヨシュアにかなわないし」
 話し込んでいると入り口から気の抜けるような台詞が飛び込んできた。
「おお、愛しのエステル君。焦がれて焦がれて夜も眠れなくしてくれた張本人がいまここにいる。さあ、ボクの胸に飛び込んでおいで」
 こんな台詞をいうのは一人しかいない。見るまでもなくわかる。瞬間、立て続けに三つのことが起こった。
 まず、ミュラーが神速の動きで容赦なく拳を頭に落とす。続いて大きく広げられていた手に鞭が絡みつき強く引っ張られ、バランスを崩したところにエステルの足払いが見事に決まった。結果、情けない姿で床に転がるオリビエが出来上がる。
「うわぁん、ヒドイわっ。なんでみんなそろってボクをいぢめるの?」
「ハンカチを噛むのはやめろ、このお調子者が」
 先ほどまで和やかにエステルと談笑していたミュラーだが、今はまた仏頂面に戻っている。
「全く、国にも帰らずこんなところでウロウロして。さっさと戻りなさいよ」
「シェラ姉」
 入り口で仁王立ちしながら巻きつけていた鞭を解くシェラザード。
「ああエステル、アイナを知らない?」
「アイナさんなら二階で報告をまとめるっていってた。呼んでくるよ」
「いいわ、私が行くから」
「でも、ここで話し込んでたらギルドの仕事に邪魔になるから、外に出るよ。それでいいよね?」
 腕組みをするミュラーと立ち上がりかけたオリビエに向けて問うと、それで構わないというように二人とも頷いた。少し待っていてと、二階に駆け上がる。しばらくしてアイナとエステルが降りてきた。
「ごめんねアイナさん、お邪魔しちゃって」
「いいのよエステル。じゃあまた」
「うん。シェラ姉もまた後で。今晩はご馳走だよ」
「わかった、期待してる」
 カウンターに置いてあった荷物を抱え外に出るエステルと男たち。
「で、オリビエ。あたしに会いたいとか言ったそうじゃない」
「ふっ、可愛い子猫ちゃんに挨拶もせず帰るほど薄情じゃないのでね」
「……むしろさっさと帰ってくれて構わないんだけど」
「いやん、つれないこと言わないで」
 エステルは無言で傍らを歩くミュラーと目配せする。
(……ミュラーさん、帝都まで、がんばって)
(ああ……善処する)
「なんだい、二人で内緒話なんかして」
 その様子を目ざとく見つけたオリビエがすねた声を出す。
「さてはミュラー、ボクがあまりにキミを相手にしないから、子猫ちゃんに手を出す気だな。嫌だなぁもう、そういってくれれば今晩……ゴメンナサイ、調子乗りすぎました」
 無言で腰から剣を抜き放ったミュラーに押され、さすがのオリビエも黙る。息ぴったりじゃないと思うが、言えばミュラーが怒るだろうので黙って歩く。
「そういえばさっきご馳走って言っていたけれど?」
「うん。今日父さんが戻ってくるから、シェラ姉呼んでるの」
「ほう。ではボクも」
 ご相伴を、と続けようとしたが相変わらずミュラーが剣を抜き身のまま持っているので言うのをやめた。それがわかったのだろう、ミュラーも剣を納める。
「そうだオリビエ」
「なんだい?」
「あの時はびっくりしたわよ? なんであんな真似しでかしたのよ」
 ハーケン門でのことだろう。一同が驚いていた様子を思い出し笑う。
「笑い事じゃないってば。あたしなんか本当にオリビエが敵になったかって思って、一戦やりあう覚悟までしたんだから」
 憤慨しながら歩く少女を見ながらやはり笑う。
「いやー、あそこまで効果的とは思わなかったよ、なぁミュラー」
「すまないな、エステル君。すべてはこのお調子者のせいだ。悪趣味だと止めたんだが」
「ミュラーさんが謝ることないよ。悪いのは全部アレだもん」
「あのー」
「今度城にきた時埋め合わせをしよう。いくらだって手合わせにつき合わせてもらうよ」
「ほんと? じゃあ……」
「……ウフフ……ボクって……ボクって愛されてる?それとも愛の試練?」
 気持ちよく無視され、壁に向かってぶつぶつつぶやき始めた。さすがに他の人に迷惑なので無視するのを止める。
「ちょっとオリビエ。頼むからやめてよ」
「また殴るぞ」
 困った顔の二人を見て少し落ち着いたのかエステルに向き直る。
「エステル君、一戦交える覚悟って……ボクを信用してくれていたんじゃあないのかい?」
「え……」
「ほら、ボース行きのセシリア号の中でさ。ボクのこと信じてくれているって。仲間として頼りにしてくれてるって、言ってくれたじゃないか」
「それはそうだけど……あのタイミングだし……オリビエあんな態度だし」
「ああ、本当につれないなぁ。ボクは君の愛と信頼に応えられるよう努力しているって、あの時言ったのに」
「……ごめんオリビエ。でもさ……」
 うつむいてしまったエステル。
「いいかげんにしろこの馬鹿。エステル君を困らせるな」
「好きな子はいぢめたくならないかミュラー」
「大馬鹿者が」
 再び容赦なく拳をみぞおちに入れる。倒れはしなかったものの、青い顔がその威力を物語っていた。
 そんな様子をみて、エステルは申し訳なさそうに言葉を紡ぐ。
「本当にごめんね、オリビエ。信じるっていったのあたしなのに、守れてなかったね。……うん、今度はどんなことあっても信じるよ。……ごめんなさいっ!」
「……」
「……」
 金髪の青年に向かって頭を下げた瞬間、抱えていた荷物からいくつかものが転がりでる。慌ててそれを拾いに行ったエステルを、半ばあっけにとられて二人は見送った。
「……いやはや、彼女にはかなわない」
「まったくだ。なんて素直さだ。貴様にも見習ってもらいたい」
「そうしたいところだが……」
 少し哀しそうな表情になり、足元に転がってきたジャガイモを拾う。幼馴染もそれ以上言わなかった。
「あっ、拾ってくれてありがとう」
 戻ってきた少女は、青年の手にあるジャガイモを見つけた。オリビエもにこりと笑い、エステルから荷物をとる。
「え?」
「運んであげるよ。家まではつらそうだ」
「大丈夫だよ。急いでいるんでしょ?」
「これくらいは構わないさ、なぁミュラー」
「ああ」
 こちらも穏やかな笑みを浮かべて応じた。

 取り留めの無いことを話しながら、彼女の家に向かう分かれ道まできた。
「ここまででいいよ。さすがに家までは持たせるわけにいかないもん。でもさ、お茶淹れるから家までおいでよ。ヨシュアもいるし」
「いや……お茶はまたの機会にしよう」
「え?今晩のご飯にも顔出しそうな勢いだったのに、どうして?」
「シェラ君ならともかく、異性を二人も連れて帰ったらヨシュア君が怒るだろう?」
「そんなことないのに。二人とも知らない人じゃないし」
「やれやれ、君はまだ男心がわかっていないねぇ」
 大げさに手をあげながらオリビエは溜め息をついた。
「何よその男心ってのは」
 腰に手を当て呆れるエステル。
「まったく、オリビエと一緒にいたらいつもあきれることばっかり」
「心外だな。ともかく、ボクたちは戻るよ。ホテルの部屋は取っているから、戻らないとね」
「そっか。なら仕方ないかな。いつ発つの?」
「明日の朝早くにだ。なるべくなら明日中に橋は越えたいからな」
 オリビエの代わりにミュラーが答えた。
「おいおい、そんなに早くに行く気かい?もっと観光をしたって」
「貴様は散々観光をしただろうが。いいかげんにしてくれ。宰相殿と渡り合うにはそれなりの準備がいるから、さっさと帰国してしまいたいのに」
「ハイハイ、わかりましたよ」
 二人の会話を聞いていたエステルは、冗談めかしたやり取りの裏の決意を見た。この二人なら帝国を変えていけるだろう。そんな確信をする。
「あのさ。もし必要だったら、遊撃士協会に応援頼んで。あたし、どこにいても行くから」
「それはありがたい。でもとりあえずはボクたちでやってみるよ。ちょいと荒療治が必要になるだろうから、その時は頼むかも」
「まかせて! 世界の果てからでも飛んでいくから!」
 どん、と自分の胸を叩く少女を見て笑う男たち。
「では。また会えるのを楽しみにしている。だからさよならとは言わない」
 ミュラーが利き手を差し出した。すこし驚きつつ、エステルもしっかりと握り締める。続いてオリビエが手を出したので、そちらも握ろうとしたが出来なかった。オリビエの手はエステルの手を通り過ぎ、彼女の体を抱き寄せたのだ。
「!!!」
 驚きで声もでないエステル。ミュラーも黙っている。
「うーん、一度こうしてみたかったんだな。ウフフ、ヨシュア君がうらやましいよ」
 戯言が頭の上から降ってきたので、思いっきり足を踏んでみた。ついでにひねりを加え、ダメージを倍加させる。あまりの痛みに涙目でエステルから離れた。
「何すんのよ!!」
 真っ赤になった少女。しばらく片足で飛び回っていたオリビエだが、そんな様子をみて言わなくてもいいのに余計なことを言う。
「いやー、初々しいねぇ。恋を知って女の子らしくなって可愛いエステル君に、ボクが惹かれてもおかしくはないだろう?」
「いい加減にして!! ……はぁ、なんか疲れちゃったよ。これから掃除しなきゃいけないのに」
 そっぽを向きながら、いつのまにかミュラーに渡されていた荷物を受け取る。
「本当にすまない。あとで言い聞かせておく」
「お願いね」
 息を整え、二人に向き直った。
「それじゃ、また。ミュラーさんじゃないけど、あたしもさよならは言わない。また会おうね。……会えるよね、オリビエ?」
「もちろん。じゃあ、また会おう」
 長い髪を揺らしながら駈ける後姿を見送る。
「……良かったのか?」
「ああ、あれ以上はできないよ。君だって気が付いているだろう?」
「……エステル君のナイト、か」
 ミュラーがつぶやいたとたんに目の前に黒髪の少年が現れた。
「まったく。あなたは全然変わっていませんね」
「そう簡単には人は変わらないよ、ヨシュア君」
 ニコニコしながら言うオリビエと対照的に不機嫌そうなヨシュア。
「しかし、心配で隠れてみているとはねぇ。ダメだよ、覗きみたいなことしちゃ」
「あなたに言われたくないな」
「エステル君は自分がいかに魅力的か気が付いていない」
 突然まじめに言い出すオリビエに身を固くする。
「油断をしていると、悪い虫に寄り付かれるよ。恋の先輩としてのアドバイスだ」
「……ケビン神父にも同じようなこと言われました」
「ほう」
 陽気な神父を思い出す。妙に気が合ってよく呑んだものだ。
「僕はエステルほどあなたを信用していない。けれど、彼女を助けてくれていたのは事実だ。だから、ありがとうと言わせてもらいたい」
「どういたしまして」
 ウインクをして少年と別れた。

「ボクのハレムにはあんな子たちも欲しいところだ」
「戯言を抜かすな。だいたい貴様がハレムを作れるほど他人に心を許せるものか。腐れたことを言う前に今後の対策を考えろ」
「彼女は特別だよミュラー。君ですら、心を動かされていたみたいじゃないか。でも君はどちらかといえばユリア君の方が……」
「……旅の果てに魔獣に襲われて他国で死亡。そう報道されたいか?」
「いやいいです」
 泣きそうな顔で即答しエステルとヨシュアが去った方向に目をやる。風が柔らかい金髪を揺らす。
「……さあ、戻るか」
「ああ。次に会える時は、どんな風に変わっているだろう。くだらない宮廷生活に戻るが、楽しみが出来た。手合わせに備えなければ」
「君が武術の手合わせならボクはベッドの中で手合わせをだね」
「エステル君のナイトに殺されてしまえ」
「いやん、ボクがいなくなると寂しいだろ?」
「全く」
「……」
 即答され、その場にしゃがみこみ「の」の字を書き始める。
「さっさと立て。夕食に間に合わなくなるぞ」
「そうだね」
 立ち上がり、空を見上げる。
「これから俺たちはどう変わるんだろうな」
「きっと、いろんなことがいい方に変わっているさ」
 オリビエは満足そうに笑い、市街へ向かって歩き出すのだった。


空の軌跡SC終了直後に思いついたオリビエ帰国のお話

奇行パワーアップでミュラーさん胃に穴開かないだろうか

なんだかんだでオリビエを見捨てないミュラーさんらぶです(笑)

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