「おい、そこの!」
 少年が眼前で仁王立ちになってステラを呼び止めた。
「私かな?」
「そうだ、おまえだ!」
「……人に用事があるときは、もう少し丁寧に。で、なんの用事?」
 ステラに諭され一瞬しおらしくなったがすぐまた胸を張る。
「おまえをプンクック団の団員にしてやる!」
「はい?」
 プンクック団? 聞いたことがあるようなないような。
「なに、それ」
「しらねーのか!? 今この拠点で一番アツいグループだ! アレッティオも団員だぜ!」
「はー。そうなの」
「本当なら一番初めにオレに挨拶しなきゃならない位なんだぞ!」
 意味もなくふんぞりかえってひっくり返りそうになる少年。
「でも私は別に……」
 と、背後にいつの間にか立っていたアレッティオにトントンと肩をたたかれた。振り返ると、諦めた顔を横に振っている。
「……ああそうなの」
「俺も無理矢理だ。入った記憶はないんだが」
「新入り! 名前は何だ!?」
 少年は体勢を立て直してステラを指さす。
「……人に指ささないこと。後は、人に名を尋ねるなら自分が先に名乗ること」
「……うっ」
「プンクック団だかなんだかよくわからないけど、それは最低限の人としてのマナーだから。もっと気の荒い人だったら絶対あなた拳骨もらってるわよ」
「ふん! 拳骨ぐらいでオレの心が折れるもんか!」
「そう。じゃあレインヴァルトさんとか、マスターとか、鍛冶屋の親父さんにやってきてごらん?」
 言われた少年が止まり、みるまに情けない顔になる。そりゃあそうだろう、明らかに怒られるのがわかっているからだ。
「……」
「そうやって人を選ぶようならまだまだね」
「……サムト」
 口をとがらし、小さくつぶやく。
「ん?」
「オレの名前だ!」
「はいよくできました。私はステラ」
「……すげー。俺なんか名前聞き出すの三日掛かったぜ」
 そのやりとりを黙ってみていたアレッティオが嘆息する。
「昔子守りしてたからね。こういうの慣れてる」
「へぇ」
「サムトよりもっともっと乱暴な子だけど、大きな家の子でね、子守り仕事としてはいい条件だった」
「じゃあそこで仕事してたら良かったのに」
「子供は成長するよ。もう子守がいらなくなったってこと」
「……なるほど」
 アレッティオに説明をしてサムトに向き直る。
「で、プンクック団だっけ? 入っても私はなんにも活動できないと思うけど。一応開拓仕事があるし。一応開拓者だからさ」
「その辺は大丈夫だぜ。俺たちの仕事は一つ! この拠点を守ること!」
「そうなの。でも門番さんとかギルドの人とかがいるよ?」
「あの人たちじゃ手の届かないところがあるだろ? そーいうのがオレたちの管轄さ!」
 聞けば、落ちているゴミを拾ったり、弱いものいじめをしている人がいれば諭したり。
「確かにそれはギルド管轄じゃないわね」
「それにあの門番さん、時々中身入れ替わってるからそれの観察」
「えっ、そうなの?」
「うん。結構な頻度で入れ替わってるぜ」
 知らなかった。門番に話しかけることなどほとんどないからだ。
「まったく、門番のことなんか気にかけたこともねーって。俺は団員になった覚えはないし、なったとしてもそんな活動する暇ねーよ。英雄になりにきたんだからな」
「私はまあいいかな。それくらいなら。依頼にでる前後やほかの用事であけられないことも多いけど、それでいい?」
「十分だ! 歓迎するぜステラ!」
「……マジかよ」
 にこにこと笑っているステラとサムトを見てアレッティオがげんなりした。

 その日から時折、子供たちに混じって走り回るステラの姿が見られるようになった。その場面をみたパートナーたちの何人かはあきれ、何人かはほほえましくみている。
「なぜおまえはそんなになって走り回るのだ?」
 ラニ・ラトが心底疑問だというように聞いてくる。
「えー? だって。子供と居るときはいつだって全力じゃなきゃ。向こうはね、大人を見てるから。じっと、ね」
「……そういうものか」
「そうだぞノトスの小僧。ガキどもは恐ろしいぐらい俺たちをみている。そして、一番まねをしてほしくないことをまねするもんだ。おまえも族長を目指すならその辺りも考えとけよ。子供はその所属する集団の、鏡だ」
 ダンデスが訳知り顔に頷き、ラニ・ラトも納得したように息を吐いた。
「あとねー、もう一つあるよ」
「なーに?」
 最近一緒になって遊んでいるニケが聞く。
「子供が子供として遊べる期間はとても短いから。むしろこの子たちは遊ぶということができる分、幸せだと思う。いろいろ大変なこともあるだろうけど、せめて今は一生懸命幸せに遊んでてほしい。……私の、願いなんだけどね」
「そっかー。なーんかステラ、思い入ってるね」
「そう? ふつうだよー」
「よしステラねーちゃんも休憩終わったか!? 終わったら今度は大通りの方のゴミを拾いに競争だ!」
 一休みをして井戸水と格闘していたサムトが英雄像下で休憩中のステラのところにやってきた。
「うっし、負けないよ。さっき僅差でジーニに負けちゃったもんねー」
「私も今度も負けないもん」
 ノトスの少女がサムトの後ろで笑っている。
「じゃあ大通りまで競争だ!」
 サムトのかけ声に子供たちが走り出す。
「うわ、そう来るか」
「ステラお先に!」
 ニケが子供たちの後について駆け出す。
「あ、ニケずるい!」
 二呼吸ほど後れてしまったがステラも走る。誰よりも早く。
 しばらくして大通りの方からルーティルが歩いてきた。転んだのか体のあちこちを軽く叩いて埃を落としている。
「どうしたシスターの嬢ちゃん?」
「あ、ダンデスさんこんにちは。先ほどステラさんやニケさんが子供たちと競争してましてね。それに巻き込まれてうっかり転んでしまいました。みんな元気ですね」
「ははは、おまえさんらしいや。んであいつ等はつむじ風のような奴らだ、あんまりまともに相手すんなよ。こっちが疲れる」
「つむじ風ですか、確かにそうですね。プンクック団でしたっけ、あの団長の子供の名前は、どこか遠い国の古い言葉で風を指したと思います」
「ふむ。風か。まさにその通りだな」
 ラニ・ラトが大きく頷いた。

 その風になった集団は大通り、魔法学院前で一端止まっていた。なんのことはない、勢いがつきすぎて露店の商品をけ飛ばした子供の一人が叱られているだけだ。
「程々にしろ!」
 店主が怒りながらも去るとすぐさま子供たちが怒られた子供を慰めにかかる。
「……やっぱ一種の社会だよねー」
「ん? ああ、そうだね」
「こうやって社会にでる準備するんだよね、ふつうは」
「……どうしたの?」
 少しステラの様子がいつもと違う。ニケが心配そうにのぞき込んだがすぐ女はにこりと笑った。その笑顔に曇りはなく、多分心配はないだろうとニケもすぐ引く。
「おいみんな、集まれ!」
 サムトが手を振り上げている。
「今から、このあたりの見回りだ! 日曜学校にも行ってない奴は一人では絶対に港には行くなよ! だれか大きい奴と行け! 半時間ぐらいしたらテルマエの前に集合!」
 少年の一言で全員が解散した。歩くことをようやく覚えたような子供は兄や姉につれられて分かれていく。そうでないものも子供なりに眼光鋭く見回りをしていた。
「さ、私たちも見回ろうか」
「そうだね。私はこの辺りにいるから、ステラ港行ってきてくれる? やっぱ子供たちだけって心配だし」
「了解ー」
 片手をあげて港へ向かう。大きくはないがそれなりに人通りのある港は、今はどうやら船は着いていないようで、喧噪はひどくない。先にいった子供たちの後を追いつつ海風を感じる。
「気持ちいいなぁ」
 強い風は好きだ。いろいろな悩みも一緒に吹き飛ばしてくれる気がする。それにステラは港の雰囲気が好きだった。どこかにいける、何かが待ってる。無性に旅にでたくなるのだけが玉にきずだが心が馳せて仕方がない。
「おっと、何か見つけたみたいね」
「ステラお姉ちゃん、これ……誰かの忘れ物かな?」
 少女の手に小さな首飾りがある。
「そうかもしれないね。近くの露店の人に聞いてみよう」
 首飾りを受け取り露店に近寄る。軽く話をしてしばらく預かってくれるようお願いした。と、今度は違う露店の商品が風で飛んでいってしまう。
「あ、行こう!」
 ステラも一緒に行って海に落ちる寸前でなんとか捕まえ、いくつか果物を抱えて戻る。子供たちもめいめいがもてるものを持っていた。
「ありがとうね。プンクック団さん」
「えへへへ、どーいたしまして」
 照れながら子供たちが胸を張る姿がまぶしい。ステラが目を細めていると、サムトが不安そうな顔をしてやってきた。
「……あ、ステラ姉ちゃん」
 あの最初の日、入団を決めた後の入団テストなるかけっこで、サムトを抜かして一番になった時からサムトはステラに一目おいているようだった。ただ、そのかけっこの際勢いがつきすぎて鍛冶屋に飛び込んでしまって主人に雷をくらったりとか、その後何かとついつい本気になって英雄像に登りギルド長に怒られそうになったりとか、そんなことをしていたせいかもしれないが。とにかくサムトはすっかりステラに懐いていた。
「ナイアを見なかった?」
「……こっちには来てないみたいだけど?」
 ナイアは協定国から家族で開拓者としてやってきた一家の一員で、少しおっとりした部分があるが小さい子たちからの受けは良かった。
「さっき学院前で集合した時点からいなかった気がするんだ」
「広場では、いたと思う」
 記憶を探りながらステラは答える。
「もしかして、間違えて裏通りの方に行っちゃったとか?」
 裏通りはあまり子供たちが近寄るようなところではない。棲み分けがなされていて、向こうの住人も子供がふらふらと入らないように、よけいなもめ事が持ち込まれないよう追い返している。
 けれどそれはそれ、子供自身が目的の場合もある。特にナイアは体つきも良く、そういう意味で期待する輩もいるかもしれない。
「ステラ、サムトから聞いた?」
「うん、聞いた。ナイアが居ないんだって?」
「らしい。広場ではいたんだけど」
 どうやらニケもステラと同じ意見のようだ。
「……サムトは子供たちをこれ以上分散させないようにして。ニケは、ギルド長とか、知り合いに当たってくれるかな。私はちょっと裏通り、行ってくる」
「え? 入れるの?」
「うん。ちょっと顔が利くから」
「……わかった。気をつけて」
「ねーちゃん、怪我すんなよ」
 心配そうに見送る二人に大丈夫だ、と腕を上げた。

 さてさて、どうなることやら。
 軽く見張りの男に事情を話すと、後から応援がくる可能性があることを渋々了解してくれた。彼らとしても子供がらみのもめ事は遠慮したいのだ。ギルドどころか協定国自身で子供の扱いに関する犯罪は重犯罪、即処刑台送りとなるほどに厳しい為だ。
「それでも仕事としては大きいから、危ない橋を渡りたがる奴もいる」
「まったくよぉ。細々と暮らしてる俺らにはいい迷惑だ」
 見張りがステラにグチり肩をすくめる。
「おいあんた、あの何とか団ってーのに言い聞かせてくれ。こっちにゃ近よんなって」

「わかった」
 神妙に頷いてステラは奥へ。一歩中に入れば雑然とした空間だ。だがステラは怖くはない。これも、生きている人の所行なのだから。
「おやおや、珍しいねぇ。正規開拓者のおまえさんがこんなところに来るなんて。どうした? 俺の顔が見たくなった?」
「ああフォルカーさん。ちょっとね」
「……マジに俺の顔が見たくなったってか? よし、あっちの宿でじっくり見せてやろう……ってそういうわけでもないんだな」
 ステラの呆れかえった表情に大柄な違法開拓者は肩をすくめる。
「ナイア……女の子が一人ね、こっちに来たかつれてこられた可能性があって」
「……美人さんか?」
「結構。年齢の割に大人っぽい子」
「そりゃマズいな」
 生やしっぱなしの無精髭に触れながら考える。
「……もっと奥の方で、子供の声を聞いたような気は、した」
「どこです?」
「酒場の裏からもっと奥に行ったところだ。おまえさんにはちょいとキツいところかもしれんが」
「わかりました。キツいのなんのと言ってられないですし」
「ん。じゃ俺も行こう。男が一緒にいる方が怪しまれない」
 その一言でステラの心が折れそうになる。つまりは、そういう場所だと言うことだ。けれどナイアのことを思うとそうも言っていられない。
「もっと寄り添ってくれてもいいのよ」
「……」
「あらステラちゃん照れちゃって」
「その妙な裏声やめてくれます?」
「つれないねぇ」
「あと腰なで回さないでください」
「……ほんっと、つれないな。いや、ここに来たいおまえさんのためにわざとだよわ・ざ・と」
「……」
 無言でステラは男の腕をつねった。涙目のフォルカーだがさすがにそれ以上はなにも言わない。
 道は入り組み、奥まっている。だがステラは物怖じせず歩く。逆に通り過ぎる訳あり男女の方が小さくなっていた。
「……この辺だな。ちょっとまてよステラ」
 フォルカーが近くのボロ小屋に住んでいる老婆に声をかける。しばらく何事かやりとりをして、最後にコインを一枚投げたところまで見て視線をはずす。
「最近なんか子供の泣き声みたいなのはよく聞こえるそうだ。たぶんあの建物だろうとさ」
「ありがとうフォルカーさん。ここまででいいです。もしもこれからのことに関わっていたらフォルカーさん、裏通り歩けなくなっちゃうかもしれないから」
「お?」
「行ってきます」
 それだけ言って後ろ手に挨拶。残されたフォルカーはあきれたため息をつく。
「……俺がうそついてだますって可能性、全く考えてないんだな。ほんとにあのお人好しのお姫様は。そのあげくに俺の心配までするのか」
 しばらく考えていたがやがて男はその場を去った。

 建物の中でうたた寝をしていた見張りはステラを見て一瞬野卑た笑みを浮かべ掛かったが、腰に差した得物に躊躇なく手をかけたのをみて慌ててその場を離れて報告に行った。なので、ステラが自由を奪われたナイアを見つけたときには何人もの無法者が彼女を迎えることになった。
「ナイア!」
「お姉ちゃん!」
 半泣きでナイアはステラに助けを求める。その声に応えて彼女は部屋の中に乱入した。
 いくら開拓者が武器を使うとはいえ拠点内で必要以上に騒ぎを起こせばまずい。そもそも許可された人間しか武器を取って拠点内では戦えない。なのでステラはまず走った。足には自信がある。
 一気にナイアのところまで駆け、少女を抱えてそのまま窓を割る。そこから外に飛び出し元来た道を戻り始めた。
 少し入り組んでいるが方向は間違っていないはず。抱きついてくるナイアをなだめながら走った。
 無法者たちはステラのいきなりの行動に馬脚を乱されたものの、すぐに二人を追いかけ始めた。
「……大丈夫。このまま逃げ切れれば私の勝ち」
 小さくつぶやき角を何度か曲がる。あともう一カ所曲がれば。
「はい、おしまいだよ。じゃあおじょうちゃん共々戻ってもらおうか」
 後一歩でもう少し大きな通りへでる、そんなところまで来て銃を構えた男たちが待ちかまえていた。下手な動きをすれば容赦なく撃つだろう。
「撃つの? 撃てるの? あんたたちに」
 この私を。魔物相手、それより以前は実際に戦場にでて命のやりとりをしたことのあるステラは、今ぐらいの状態なら慣れている。その気配に押されたか少したじろぐ男たち。
「ナイア、少し離れてて」
 少女の拘束をほどいて柱の影に行くよう指示をする。あそこなら自分が倒れなければ男たちには手が出せない。
「はっ!」
 短く息を吐いて走る。男の一人に通り抜けざま蹴りを入れた上に手首に手刀をいれて銃を落とさせた。落ちた銃は蹴ってすぐには手の届かない位置へ滑らせる。
 ついで二人目も同じように武器を封じる。三人目にかかろうと言うとき、
「私も手伝うわ」
 とボウガンを構えたオルガが合流。
「使っていいって、許可でたわよ」
「うん。でも使いたくないから」
「全く君らしいことだ」
 少し離れたところからレインヴァルトが声をかけてきた。彼の出現に無法者は明らかに浮き足立っている。
「こちらとしてはそれに寿命縮めますよ」
「本当ですね」
 槍をもったエミリオとマリアシャルテが背中合わせになりつつ対称に技を繰り出している。その隙にメルフィとディジーがナイアに駆け寄り保護。
「な、な、なんなんだ!」
 男の一人がステラに飛びかかってきた。手近な木材を握りしめ彼女を殴ろうと振りかぶるが、それより先に鞘ごと剣をもって木材の軌道をずらし、そのまま男の懐に入り込む。抱え込むようにしてひっくり返した。
「ナイア、大丈夫?」
「うん、うん……お姉ちゃん……ありがとう」
 ディジーに肩を抱かれた少女はしゃくりあげているがそれ以上何かがあったわけでもないようで心底ほっとした。
 やがてギルドから派遣されてきた兵たちが無法者を拘束していく。
「……みんな、どうして?」
「ニケから話きいてさ、その辺にいたの集めて来たんだ」
「そうしたらあの人がこっちだと教えてくれました」
 メルフィとディジーが指した先には露店で何か買って食べた瞬間のフォルカー。
「あっちー。こんなに熱いとは思わなかった」
「……フォルカーさん、ありがとう」
「んー? ならせっかくだしおまえさんの体でお礼してもらおうか? 気っ風もいいし度胸もあるし俺おまえに惚れちまったぜ?」
 礼をするステラの体をぱっと抱え込み芝居がかった仕草で顎を持ち上げる。が、ステラはあきれるばかり。
「……同じような台詞で前酒場の姐さんを口説いてたの知ってますよ」
「なにっ。ばれてたか。だがあれはあれだ。ステラ、せっかくだからさ。やっぱりそこの宿で……」
「ナイア送ってきますね」
 それだけ言って少女のところに戻った。そして一団は裏通りから撤退を始める。
「……やっぱ、いい女だよなぁあいつ。なかなかあんな上物いないぜ」
 本気で惚れたらどうしようか、それもいいもんか?
「なあ刀匠さんよ、そう思うだろ?」
「なっ……」
 一番最後に一団について帰ろうとしたエミリオに意味ありげな笑いを送る。
「あいつだよ。ステラ。いい女だよなぁ」
「……まあ、それは、そうだと思いますよ」
「なんだよその奥歯にものの挟まった言い方。おまえさんらしくないぜ」
「そうですかね」
「てーわけでちょうど良かった、おまえんとこ行こうと思ってたんだ。悪いがコイツ見てやってくれ」
 と、エミリオに持っていた自分のボウガンを渡す。
「フォルカーさん、実力あるんだからふつうに正規開拓者になってくださいよ。まあ僕も、あなたがステラさんの知り合いだから受けますけど」
「ひひひ、俺みたいないい男はそんな枠にはとらわれないもんさ」
「はいはいわかりました。じゃあ一週間くらい見ておいてください」
「わかった。その頃に鍛冶屋にまた顔出す。よろしくたのんだぜ!」
「あとあんまりステラさんを困らさないようにしてくださいよ」
「おー? いや、いい女が居たら口説く! 男の本能だろ? つーか多分俺よりレインヴァルトの方がその気になったら手が早いと思うぞ? あの手の奴は」
「えっ」
 いやマジでマジで。鷹揚に頷くとエミリオは慌てて一団の後を追ってしまった。しばらく黙って見送っていたがややあって大笑い。
「人が悪いわね、あなたも。からかうのも程々にしたら? 彼は私たちと違って純朴なんだから」
 苦笑いをしてオルガがフォルカーをつつく。
「いやだってよ、あんなに見事に顔色変えるってのもなぁ。是非からかってくれって言ってるようなもんじゃないか。それにレインヴァルトは手が早いのは確かだ。その気になるまでが異常なほど長いってだけで」
「否定はしないけどね」
 オルガがふと思いついたというように笑う。
「でもね、一番のライバルはレインヴァルトじゃなくてサムトだと思うわ。あの子ステラにすっごく心酔してるもの」
「あ、あのガキ大将か。女を見る目あるな」
「子供特有のずるがしこさ、あの子持ってるしね。ちゃんと周囲に男が近寄らないようにしてるわよ。ほんと、開拓者になれる年になったらステラをパートナーにしていくんじゃないかしらってくらい」
「あー。そうかもしれんな。そうなったら見物だな」
「ふふ、その頃にはステラを好きな人は何人に増えてることやら」
 男女問わずに彼女は人を巻き込むだけ巻き込んでその人柄に惚れ込まれている。オルガ自身も放っておけないお人好しだ、といいつつ気になることは間違いない。
「ま、いい暇つぶしにはなったさ」
 オルガに手を振ってまた裏通りをぶらぶら。
「……ああ、俺も本気なのかもな」
 強い女は好きだ。からかってとどまれる程度で収まればいいのだが、と肩をすくめた。

 で、それでもやっぱりプンクック団の嵐は収まらない。サムトやほかの子供たちに混じってステラがギルド長に雷を落とされる姿は、広場の風物詩となったのだった。

END


 レインヴァルトさんは手が早いっつーか、そういう気持ちになったら一気に結婚まで持ち込まれそうな気がしてならない。門番は本当によく入れ替わっている。あれはクリア後のお遊びなのかもしれないけど。地味に声をかけるのが楽しくなってきてたw
 フォルカーさんはなんか結構美味しい場所にいることが多いのは、元々の本命予定がフォルカーさんだったからなんだろうな、って思うわけで。あと立場的にかなり動かしやすい。どこにいても「ああフォルカーか」って感じでwww トリックスターって程はないけどそんなイメージ。
2013.6.6

 

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